kennyheadway's thinking

こちらは日々思うこと、COVID-19について思うこと述べていくことになりそうかな。

オミクロン株でわかっていることは何か?

11月27日には6つの国が、11月30日にはすべての国から入国禁止措置というこれまでにないスピーディーな対策が行われている。南アフリカの新しい変異株に関する報告書は以下のサイトから見ることができる。

sacoronavirus.co.za

 

南アフリカ共和国の保健当局のポータルサイトにあるこのスライドの10ページ目に、変異株の割合を示したものがある。薄緑色のベータ株 (B.1.351)が2020年8月から増え始めている。濃茶色のアルファ株 (B.1.1.7)はそれほど多くは無いものの2021年2月からほんの少し見られる。茶赤色のデルタ株(B.1.617.2 / AY.X)は2021年2月から増え始め同年6月にはほとんど占有している。黄色のC.1.2は南アフリカで発見された新種の変異株であるが、それほど多くは増えていない状況である。

今回新たに発見された青色で示したオミクロン株 (B.1.1.529)は2021年11月から急に拡大している。ベータ株の薄緑色、デルタ株の茶赤色よりも増え方の傾きは非常に急であることがわかる。新しい変異株が感染力が従来よりも高ければ占有率が高くなる傾向からすれば、オミクロン株は今後それに代わってくる可能性は高いであろう。

f:id:KennyHeadway:20211129162125p:plain

出典:SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25 November 2021 (page 10)

基本再生産数はどの程度なのか

感染力の指標を示す基本再生産数R0があるが、これはデルタ株以上であることは間違いがないと思う。デルタ株はR0が5から9といわれていて水痘と同じという認識である.

 

f:id:KennyHeadway:20211129163129p:plain

出典:【緊急寄稿】デルタ株は極めて感染力が強く重症化しやすい─米国CDCの見解(日本医事新報社)

オミクロン株はそれ以上ということであり、例えていうのであれば麻疹(はしか)に相当する、とはいうもののだれもR0の尺度で言っている人がいないが、デルタ株のように幅を持たせるのであれば、10から15の範囲に相当すると認識していた方がよいかもしれない。横軸は仮にそうだとしても縦軸がどのようになるのかはまだ情報が無いのが実情である。従来株およびデルタ株はだいたい0.1から1%と致死率を定めているがオミクロン株については感染してどうなるのかはまだはっきりとした情報が上がっていないようだ。

jp.reuters.com

伝搬性は麻疹なみと述べたが、イギリスでは市中感染が認められたとの報道もある。渡航歴がなく観戦する原因として空気感染かということも視野に入れる必要がある。

www.bbc.com

 

変異している個所からどういうことがわかるか

国立感染研究所はオミクロン株についてすでに第2報を発表している。

www.niid.go.jp

変異については、以下のように述べている。

  • オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein; RBD; residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief)。
  • オミクロン株に共通するスパイクタンパク質の変異のうち、H655Y、N679K、P681HはS1/S2フリン開裂部位近傍の変異であり、細胞への侵入しやすさに関連する可能性がある。nsp6における105-107欠失はアルファ株、ベータ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在する変異であり、免疫逃避に寄与する可能性や感染・伝播性を高める可能性がある。ヌクレオカプシドタンパク質におけるR203K、G204R変異はアルファ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在し、感染・伝播性を高める可能性がある(Department Health, South Africa. SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25)。

なかでもP681の変異はデルタ株でも見られた変異である。デルタ株はP681Rであるのに対して、オミクロン株はP681Hとなっている。S1/S2フリン開裂部位近傍は細胞への侵入しやすさの関連する可能性があるといわれているが、この変異がデルタ株は確か1つだけだと思うがそれが3つもあるということである。

受容体結合部位(RBD)はスパイクたんぱく質の319番から541番に相当するが、この番号に相当する変異は、K417N, N440K, G446S, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505Hと報告されている。なんと11か所もRBDにあるということである。

RBDは受容体ACE2に結合するSARS-CoV-2の突起部分にあり、RBDが変化するということは、より受容体ACE2に結合しやすくなったり、抗体を寄せ付けなくなる(例えていえばステルス性を持って邪魔されずACE2にくっつくということ)確率が高くなることである。

この夏に散々悩まされたデルタ株は、子供にも感染しやすくなったことが知られている。子供はもともと受容体ACE2の数が大人よりも少ないと言われている。しかし感染するということは、それだけデルタ株の感染確率が高くなったということがいえる。であれば、このオミクロン株はより確立を上げてACE2にくっついて感染することが想像できる。デルタ株の体内のウイルス量は、従来の株よりも1,200倍もあるという話があったが、このオミクロン株はそれを上回ることも想定される。

N501Yはイギリス由来のアルファ株と同じであったり、K417N、T478Kはインド由来のデルタ株と同じである。E484Kは南アフリカのベータ株による免疫回避の代表格であるが、オミクロン株はE484Aとアミノ酸の変異が異なっている。こうした変異はヒトの受容体ACE2に結合しやすかったり、免疫を回避する傾向があるとされ厄介なところがある。デルタ株に見られるL452Rの変異はオミクロン株にはないようだ。

以上、感染しやすい傾向が強い理由を述べてきたが、それに対して病状はどうなのかは明らかになっていない。

 

f:id:KennyHeadway:20211129170404p:plain

出典:東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト

上のグラフは東京都の新型コロナウイル対策サイトで、L452Rの変異の割合を濃い緑色で示したものである。それ以外の変異は薄い緑色であるが、現在もL452Rの変異のデルタ株の占有率が高い傾向にある。左側のスケールの0から100%で見る。

折れ線グラフは変異株PCR検査実施割合で割合は右側の0から60%のスケールで検査率は少なくなっている。こうした情報から、日本ではどういった変異株が優勢であるかを見ることができるかもしれない。これからオミクロン株の占有率が公表されると思うが、感染者数が少ない現状ではサンプル数からまだはっきりとはいえないであろう。

決して感染者数が多くなることを歓迎しているわけではないが、動向はいろいろな情報から分析できると思う。

 

ワクチンは効果があるのか

この疑問が一番関心があるところである。試験管レベルでの実験は現在すすめられているようである。スパイクたんぱく質のRBDに関する変異から免疫回避の傾向が強いようで、現在使用されているワクチンでは有効性は高くないかもしれない。

 

下図はNEJMの投稿にあった各種変異株の中和抗体の力価について説明である。Aはコロンビアにおける変異株の寄与率を表しているものであるが、ミュー株が大勢を占めている。Bは回復者血清の力価、Cはファイザー社製のワクチン接種者の中和抗体の力価を示しているようであるが、ベータ株、ミュー株は力価が他の株と比べて低いことが示されている。

f:id:KennyHeadway:20211130073632p:plain

出典:Neutralization of the SARS-CoV-2 Mu Variant by Convalescent and Vaccine Serum (NEJM)

パネルAは、コロンビアにおける2021年1月から8月までのコロナウイルス感染症2019(Covid-19)の新規症例を示しています。ミューの変異体は,2021年1月11日にコロンビアで初めて分離されました(Global Influenza Surveillance and Response System accession number, EPI_ISL_1220045)。黒い線は毎週の新規症例数を示し,色のついた棒は,症例中の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の各亜種の割合を示している.生データは補足資料の表S2にまとめられています。

パネルBおよびCは、ウイルス中和アッセイの結果を示す。中和アッセイは,α,β,γ,δ,ε,λ,μ亜型のSARS-CoV-2スパイクタンパクを保有する擬似ウイルス,またはD614G変異を保有するB.1系統のウイルス(親ウイルス)を用いて行った。血清サンプルは、Covid-19から回復した13人(パネルB)と、BNT162b2ワクチンを接種した14人(パネルC)から採取した。各血清サンプルのアッセイは、50%中和力を決定するために3回実施した。各データポイントは個々のサンプル(○)を表し,各サンプルで得られた指示されたシュードウイルスに対する50%中和価を示す。棒グラフの高さおよび棒グラフ上の数字は幾何平均力価を示し,𝙸棒グラフは95%信頼区間を示す。括弧内の数字は,親ウイルスと比較した場合の中和抵抗性の平均的な差を示す.横の破線は検出限界を示す。血清サンプルの回復期ドナー(性別、年齢、疾患の重症度、検査およびサンプリングの日付)およびワクチン接種ドナー(性別、年齢、2回目のワクチン接種およびサンプリングの日付)に関する生データおよび情報は、補足資料の表S6およびS7にまとめた。

ミュー株については、上図がだぶるが過去に述べていた。

kennyheadway.hateblo.jp

オミクロン株においては、中和抗体の力価は低いとされるベータ株、ミュー株よりも低いことが予想される。ただし体内の免疫はワクチンでできる抗体(液性免疫)のほかにもT細胞とかの細胞性免疫などの働きもあるので、一概にワクチンが効き目がないという悲観的な思いに浸ることは無いと信じたい。

おそらく、現行のワクチンでは効果が低下している。このオミクロン株においてはワクチンに耐性を持ってしまった変異株と認識した方がいいのかもしれない。ワクチン製造メーカーのモデルナ社は新種を開発始めたというニュースがある。

prtimes.jp

モデルナ社はいくつかシナリオを考えているようだ。高容量にするか、mRNAの型を変えるか。このリリースを読むと、『モデルナ新型コロナワクチン(mRNA-1273)』と型式がmRNA-1273とある。そのあとの数字も含めて、mRNA-1273.211、mRNA-1273.213という型式のものがある。オミクロン株対応型は、mRNA-1273.529と、B.1.1.529の529を取っている。余談であるが、ワクチンの型式から現行型なのか新型なのかが特定できるかもしれない。

 

現時点では、情報をもっと集める必要がある

懸念される変異株とされたオミクロン株は現時点では情報が断片的で危険なものかどうかは判断ができない。ただし感染力はデルタ株よりも高いと見た方が良いと思う。病状については今後明らかになってくるだろう。海外の動向を見るのであれば、オミクロン株に限っては、南アフリカ共和国、イギリスをはじめとする欧州の国々、ワクチン接種が早い時期から行われてきたイスラエルなどを見ていくと何かがわかってくるのではないだろうか。日本においては、冬の時期、年末年始のことから市中感染が容易に発生しやすくなるかもしれない。10月、11月は穏やかだったが、新たな変異株で状況が変わってしまったが、これまでの経験から賢く行動していくことが臨まれる。